パーキンソン病に対する笑いの効用

日頃、神経内科外来で気付くことは病気とうまくつきあうことの難しさと大切さです。
特に神経内科領域では難病が多く、症状が進行性であり、徐々に日常生活の能力を低下させるため、病気とうまくつきあうことはかなり困難となります。
パーキンソン病も神経難病のひとつですが他の疾患との違いは根本的治療はなくとも症状を軽減させる対症療法の発達している点です。
しかし、徐々に進行することは間違いなく治療にも限界があり、無動、姿勢反射障害などの症状は患者さんを憂鬱な気分にさせると思います。
日々つまらなさそうに生活している方もいますが、同じ病気を持っていてさらに比較的病期が進んでいても明るく前向きに生活している方も多くいつも感心させられます。
この差は元々の性格、環境など様々な要因があると思います。

以前より前向きな思考、笑いは病気に良い影響を及ぼすと言われていますが、医学会においても、笑いは注目されています。
昇 幹夫先生らを中心とした日本笑い学会などもあり、笑いに関する様々な研究が行われています。(※1)
吉野槇一先生らはリウマチ患者に林家木久蔵師匠(現在の林家木久扇師匠)の落語を聞かせたところ痛みが軽くなり、免疫機能が変化したと報告しています。(※2)
海外でも笑いは人の免疫機能を高める、循環機能を改善させる等と様々な研究結果が報告されています。

「パッチ・アダムス」という映画が以前上映されました。(※3)
笑いが人の心や病気を癒すことに気付き、愛とユーモアを取り入れた無料で患者を診察する病院を設立したパッチ・アダムスという人物の話でした。
観た方も多いと思いますが、現在の医学において忘れがちなことー病気の診断方法、治療法ばかりに目を向けるのではなく、患者を癒すこと、人生を知ることの大切さ等を多く教えてくれます。
笑い=人生を楽しむといっても良いでしょう。
どんなに障害をもっても自分の人生の一部として受け入れ、パーキンソン病とともに前向きに生活することが治療のなかで最も大切だと思います。
もちろん、適切な薬物療法、リハビリテーションが行われていることが大前提です。
パーキンソン病は表情が乏しく、小声となり、精神症状としてうつ傾向になることもあります。
このような症状のリハビリテーションとしても笑うことは非常に有効であると思われます。
どうしても家でテレビのお守りをしがちな方は天候の良い日に散歩に出かけてはいかがでしょうか。

私は患者さんが病院に訪れるだけで癒され、症状が和らぐような外来、治療の中に笑いのある環境を作っていきたいと思っております。

最後にパーキンソン病とうまくつきあいにくい人へのアドバイスです。
1、症状日誌をつけましょう。その中に何か1日のうちで楽しかったことを書きましょう。
2、1ヶ月のうちで最も楽しかったことを主治医と外来で話しましょう。

皆さんが笑顔の絶えない日々を送られることを心から願っております。
参考文献
※1 笑いは心と脳の処方箋 昇 幹夫
※2 Effects of mirthful laughter on neuroendocrine and immune systems in patients with rheumatoid arthritis Yoshino, et al. J Rheumatol 1996:23:793-4
※3 パッチ・アダムスと夢の病院(Gesundheit!)パッチ・アダムス、モーリーン・マイランダー 新谷寿美香訳

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